デス・オーバチュア
第191話「真王聖剣」



「氷!」
オッドアイが下段に構えていた青の聖剣を振り上げると、氷でできた三日月の刃が放たれる。
「ふぅ〜ん、数で攻めるのはやめたの〜?」
セレナは右手を赤く輝かせると、迫る三日月の氷刃をあっさりと打ち砕いた。
「炎!」
オッドアイが上段に構えていた赤の聖剣を振り下ろすと、今度は、巨大な火球が撃ちだされた。
大きさは、先程の三日月と同じで、全長2メートル程である。
「ふぅぅ〜ん」
セレナは、己を一呑みにできる程の巨大な火球に、青く輝く左手を無造作に突きだした。
左手が触れると、火球は爆発することもなくピタリと停止する。
「やっぱり、炎の方が魔属性なのね……うふっ」
セレナが左手を握り締めると、火球が握り潰されるようにして爆散した。
「正(プラス)の方が聖だと思っていたけど、負(マイナス)の方が聖なのかしら?」
「知りたければ、その身で知れ……」
上空からのオッドアイの声。
「氷炎剣、青の奥義……水仙龍極斬(すいせんりゅうきょくざん)!」
青い光輝でできた巨大な龍が出現するなりセレナを一口で呑み込み、そのまま地上に大激突した。
青輝の爆発と共に、大地も海も、眼下の世界が全て一瞬で凍結する。
「……うふふふふ、うふふふふふふふふふふ……」
氷の大地を内側から貫いて、セレナが飛び出してきた。
「まさか、絶対零度ですらない凍気でこの私が凍るなんて思ったのかしら〜?」
セレナは無傷というか、薄皮一枚凍ってはいない。
「私を凍らせたかったら、最低でも絶対零度の数百倍の凍気が必要なのよ、うふふふっ」
「おい……」
「うふふふ、勿論解っているわよ、絶対零度以下の低温は存在しないって言うんでしょう? そんなの常識ですものね、うふ、うふふふふふふふふっ!」
つまり、セレナは物理的にどんな方法でも自分を凍結させることはできないと言っているのだ。
「でも、例えば、今は亡き氷夢の女王とかなら私を凍らすことができたかもしれないわね。常識、理屈を超えた強い想いの力なら……」
「氷夢……ネージュ……?」
「うふふふふふふ、物理的な絶対零度すら作り出せないあなたには関係ない話だったわね。さあ、続きを始めましょうか〜?」
セレナは両手を広げると、赤く発光させる。
「うふ、うふふふふふふふふふっ……」
彼女の瞳もまた血のように真っ赤に染まり、光り輝いていた。
「ふん……氷!」
オッドアイが青の聖剣を一閃すると、三日月の氷刃が六発同時に撃ち出される。
「うふふふ……」
両手の輝きが爆発的に増し、掌の上に赤い小さな満月のような球体が作り出された。
「月煌玉(げっこうぎょく)!」
セレナは両手の光球を放り投げる。
二つの光球は、飛来する三日月の氷刃に接触し、巻き起こった赤い閃光の大爆発が全ての氷刃を呑み込んだ。
「あらぁ?」
爆発の中から、濃さの違う小さな『赤』が飛び出してくる。
それは小石ぐらいの大きさの火球だった。
セレナは右手を赤く発光させると、無造作に火球を払い落とそうとする。
「えっ……きゃああああああああああっ!?」
火球に触れた瞬間、予想外な大爆発が起こりセレナを呑み込んだ。
「確かに、僕の氷はネージュやフィノーラに及ばず、炎は噂に聞く炎の悪魔達に及ばないだろう……」
いつの間にか、オッドアイは、セレナを呑み込んだ爆発の遙か上空に移動している。
「だが、氷炎剣……両極剣の真価は二剣を同時に使った時初めて発揮される……」
オッドアイは吹き飛ばされながらも、両手の聖剣をそれぞれ大上段に振りかぶった。
聖剣がそれぞれ、赤い煌めきと青い煌めきを放ちだす。
「奪魂、法悦、忘我の極み……駆け抜けよ! トゥインクルエクスタシー!!!」
振り下ろされた聖剣からそれぞれ赤と青の光輝が解き放たれた。
赤と青の光輝はそれぞれ逆回転の螺旋状に宙を走り、互いに絡み合いながら、セレナが居るはずの爆煙へと迫る。
「恍惚のうちに果てろ!」
赤と青の光輝は爆煙の中へと消えていった。
「…………」
おかしい、爆煙の中に二色の光輝が消えてどれだけ経っても、大爆発どころか何も起こらない。
その理由は、爆煙が完全に晴れた瞬間に解った。
「何!?」
「うふふふふふ……」
右目を赤く、左目を青く光り輝かせたセレナが姿を現す。
「その技は叔父様との勝負の時に、一度見せてもらったわ」
セレナの赤く発光する右手が赤い光輝の先端を、青く発光する左手が青い光輝の先端をしっかりと受け止めていた。
二色の光輝は、セレナの両手の輝きに掌握でもされているのか、爆発する気配もない。
「だから、破るのなんて簡単なのよ。昔から言うでしょう、一度見た技は二度は通用しないって、うふ、うふふふふふふふふふふっ……」
「馬……」
「リフレクトエクスタシー!!!」
セレナは二色の光輝をオッドアイに投げ返した。
二色の光輝は、聖剣から放たれた時と同じように、互いに絡み合いながら、オッドアイへと向かっていく。
「ちっ、仕方ない!」
二色の光輝が到達する直前、オッドアイの二本の聖剣がそれぞれ、赤い煌めきと青い煌めきを放った。
「くぅ……相殺!」
赤と青の閃光が周囲に拡散する。
「うふふふふっ、二発分のエナジー消費御苦労様ぁ〜」
「ちっ……」
「赤と青、炎と氷、プラスとマイナスの光輝が周囲を巻き込んで対消滅を起こすのは……あくまで衝突の瞬間だけ……だったら、その前に二つの光輝を手で捕まえてしまえばいい……容易いことね、うふふふふふ……」
セレナの両手から赤と青の発光が消え、瞳も通常の黒色へと戻った。
「容易いだと……」
例え、赤と青の光輝が衝突しあえなくても、普通に手で触れたらその瞬間にそれぞれの光輝による大爆発が起こるはずである。
それに対して、セレナは器用に右手と左手にそれぞれ、赤と青の光輝と同質の力を纏って、受け止めたのだった。
「次は、鳳凰と龍の同時撃ちでも試してみるぅ〜? 無駄だと思うけど……うふ、うふふ、うふふふふふふふふふっ……」
セレナは、オッドアイが以前、ルーファスに対して使った氷炎剣奥義『聖魔龍凰斬(せいまりゅうおうざん)』さえも、一度覗き見ているので、自分には通用しない……と宣言しているのである。
「ならば、望み通りくれてやる……」
オッドアイの体中から溢れる青き光輝が凄まじい勢いで二本の聖剣に注がれていき、聖剣はそれぞれ赤と青の激しい煌めきを放出しだした。
「うふふふふ、やっぱり試さないと納得できないのぉ〜?」
「…………」
真下に向けていた二本の聖剣を鳥が翼を広げるように、ゆっくりと頭上に向かって持ち上げていく。
「氷炎剣奥義!」
「うふふふふふ……」
赤と青の煌めきを放つ二本の聖剣がオッドアイの頭上で交差した。
「聖魔龍凰斬!!!」
オッドアイが交差させた聖剣を振り下ろすと同時に、巨大な青い光輝の龍と赤い光輝の鳳凰が出現する。
巨大な龍と鳳凰は、セレナに向かって解き放たれた。



鳳凰の炎にも、龍の凍気にも耐えられた。
だが、鳳凰と龍の衝突による対消滅現象には絶対に耐えられるはずがない。
一切の例外なく、耐えられるモノなどこの世に存在しないのだ。
トゥインクルエクスタシーの時と同じ破り方ができると言うならやってみるがいい。
鳳凰も龍も、片手で受け止められる程の脆弱な威力ではないのだ。
「大陸ごと消え去れ!」
対消滅現象が起これば、最低でも中央大陸の真ん中に風穴……パープルの全領土消滅……を空けることだろう。
最高に極まれば、大陸全てが消し飛ぶかもしれなかった。
その位の『力』を込めて放った一撃なのである。
「仕方のないお子様ね、オッドアイ……地上の被害ぐらい考えなさいよ〜、うふふふ……」
「地上などどうなろうと僕には関係ない!」
「ところで、紅月掌も蒼月掌も本当は月煌掌(げっこうしょう)という同じ技なの。要は行使する力が魔性か、神聖かの違いでしかない……」
「何を……?」
セレナの瞳が真っ赤に染まり、今までになく激しく光り輝いた。
広げた両手もまた同じ赤い輝きを放ち出す。
「神魔の使い分けだとか融合だとか小賢しいことはもうお終ぁい〜」
セレナは際限なく赤い輝きを増していく両手を、前方に持っていき組み合わせた。
「紅く、朱く、赤く、赫く……月よ、血に染まれ!」
迫る二体の光輝の霊獣と、セレナの間に巨大するぎる赤い満月が生まれる。
鳳凰や龍が百体居ても埋め尽くせない程の馬鹿でかい月だった。
「馬鹿なっ!?」
「見よ、真なる月を……そして、狂い死ねっ!」
真月が地上全土をその輝きで埋め尽くさんとばかりに、爆発的に発光する。
「真月狂宴(しんげつきょうえん)!!!!」
真月がオッドアイの存在する上空へ……天へと帰らんと解き放たれた。



「うふふふふ、この姿で素手ではこの辺が限界ね」
セレナは、天空へと登っていく真月の光を浴びながら呟いた。
もし、今が昼ではなく夜だったら、夜空に二つの満月が輝いて見えたことだろう。
鳳凰と龍、そしてオッドアイを呑み尽くした真月は天……世界の外へと飛び出し爆発する……はずだった。
遠近を無視して、空の太陽と同じ大きさに見えるぐらいになった真月がピタリと止まる。
「あらぁ?」
「真月……真なる月か、面白いものを見せてもらった……」
真月の向こう側から、オッドアイの声が聞こえてきた。
「ならば、その礼に……僕も見せよう、我が聖剣の真なる姿を……」
停滞している真月が凄まじい金色の後光を放つ。
「数多の世界にその姿を現し、その名を残す……この世でもっともポピュラーな聖剣……」
「あら、あららぁ〜?」
セレナが愉快そうな、何かを期待するような表情を浮かべた。
「聖剣の中の聖剣、王者の証にして覇者の剣……」
真月を二つに割るように、一筋の黄金の縦線が走る。
「見ろ、真なる王の輝き……そして、跪け!」
月を割る一筋の黄金の光の中から、オッドアイの姿が浮かび上がった。
彼の両手には、柄も鍔も刃も全てが黄金で作られた豪奢な一振りの直剣が握られている。
金色の輝きを放つ剣は、さらに異なる輝きを放つ赤と青の装飾や模様で彩られていて、その美しさはこの世の物とは思えぬ程だった。
「あはははははははっ! 月を割った!? 剣の一振りで!? 私の月を? 凄い凄い! きゃははははははははははっ!」
セレナが狂ったように笑う。
「退場の時間だ、狂った道化師」
オッドアイは黄金の聖剣を振りかぶった。
「その赤い瞳にしかと焼き付けろ、真王聖剣(しんおうせいけん)エクスカリバーの真の輝きを……」
その聖剣は例えるなら宝石剣(ジュエルソード)。
刃と鍔と柄は一体型で全てが神々しい輝きを放つ黄金でできており、鍔の中心には金剛石(ダイヤモンド)が埋め込まれ、剣の模様のような赤と青は紅玉(ルビー)と青玉(サファイア)の輝きを放っていた。
「うふふふっ、確かに至高の美の結晶でしょうけど、それじゃあ剣としての実用性なんて……」
「勘違いするな……」
「あらぁ?」
オッドアイの全身から爆発的な勢いで青い光輝が噴き出したかと思うと、全ての青輝が黄金の聖剣に注がれていく。
聖剣は注がれた青輝を黄金の光輝へと変換し刀身から勢いよく放射した。
そして、アッという間に、オッドアイの頭上に、セレナの作りだした真月よりも巨大な黄金の太陽が光輝によって生み出される。
「真の聖剣(エクスカリバー)は刃で斬るのではなく、その輝きによって全てを消し去る消魔(しょうま)の剣だ! 失せろ、永久にっ!」
オッドアイは黄金の太陽を纏った聖剣を一気に振り下ろした。
「あはははははははっ! 正気? 下に向けてそんなの普通撃つ? 地上も跡形もなく消し飛ぶわよ! まあ、それも面白そうだけど、あははははははははっ!」
セレナは赤く輝く両手を組み合わせて、真月狂宴の発射態勢をとりながら高笑する。
「ふん、地上など僕の知ったことではないが……いらぬ心配だ」
「あらぁ? どういう意味なのかしらぁ〜?」
「聖剣の輝きが消し去るのは悪しき魔……即ち貴様だけだ!」
「あはははっ、流石は最強の聖剣、自然と生物に優しいのね! 真なる月の下で狂い死ね、真月狂宴!!!」
巨大な赤い満月が出現するなり天へと解き放たれ、黄金の太陽と正面からぶつかり合った。
黄金の太陽と、赤い満月は、互いを呑み込もうとしながら、中空で激しく押し合う。
「あ……あら……? 二発目なんで少し威力が弱い……せめて、今が夜だったら……」
少しずつ、赤い満月の方が下へと押し戻されだした。
大きさも段々と縮んで……いや、太陽の方が満月を喰らって膨れあがっていく。
「今は貴様の時間じゃないということだ……光に消えろ、月の黒兎!」
「これはもう駄目ね……うふふふふっ、良いモノを見せてもらったわ、オッドアイ……うふ、うふふふふふふふふふ……」
黄金の太陽は満月を完全に呑み込むと、倍以上の大きさに膨れあがり、そのままセレナを下敷きにして地上に激突した。
「きゃははははははははははははっ!」
笑いとも、悲鳴とも、断末魔とも判別のつかないセレナの声が響く。
次の瞬間、爆裂した黄金の光輝が世界を埋め尽くした。



















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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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